2012年5月3日木曜日

ヘルスプロモーションに関するよくある質問



女性の健康教育
〜ヘルスプロモーション的健康支援

佐甲 隆

学習目標

1.看護、生活支援におけるエンパワメントや、ライフスキル、ヘルスコミュニケーションなどの基本的考え方と手法を理解する

2.ヘルスプロモーション的な健康教育の手法とスキルを理解する

3.女性の各ライフサイクルにおける教育支援的課題を理解する

 

1.はじめに
 女性が健康的に過ごすためには、女性自らが積極的に健康な行動をとり、特有の問題にも対処できるようなスキルを高める支援が求められる。健康教育とはそのような健康支援に他ならないが、従来の医学知識の提供といった医学モデルだけでなく、生活全般にわたるヘルスプロモーション的支援が最も望ましい。

ヘルスプロモーションとは、「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義されるが、簡潔に言えば、個人や地域社会への包括的な健康づくり対策・活動と言うことができる。(詳細については「ウィメンズヘルス T」に詳しい)

 オタワ憲章では、ヘルスプロモーションの基本的な考え方を示しており、健康のための基本的な前提条件をあげ、表1のような考え方に沿って、様々な活動を展開することを提唱した。わかりやすく言えば、ヘルスプロモーションとは、人々の力を引き出し、参加を促し、全人的な健康づくりを、組織間で協働し、社会的な公正を目指して、様々なアプローチを組み合わせて行うことと言える。

その戦略のうち、健康教育として重要なのは、イネィブリング(能力の付与、エンパワメント)であるが、アドボカシー(唱道、社会的支援)やメディエイト(調停、調整、協働)の考え方も欠かせない。表2にアドボカシーの基本的な概念を示したが、健康教育は単に集団的な知識情報共有ととらえるだけでなく、健康向上のビジョンに向けたヘルスプロモーション活動の一環として、支援的、協働的に展開して行きたい。

シゲリストは「健康とは、単に病気でないだけでなく、前向きに、生活を楽しめ、人生での個人的責務を喜んで受け入れられるような状態である」と定義したが、ヘルスプロモーションや健康教育では、健康の意味を包括的、全体的に理解することから始めたい。健康は毎日の生活を前向きに楽しみ、社会参加していくための資源であるというヘルスプロモーション的な健康観を基礎に、地域、家族、個人が自分の健康を自らコントロールするために必要な情報やスキルを得て、セルフケア、セルフヘルプ、相互サポートなどの技術を高めるような支援や社会的アプローチが求められる。

ここでは、女性の課題に焦点をあて、生活支援、看護面でのヘルスプロモーション実践活動をふまえた、ライフスキルの向上を目指す健康教育、ラーニング支援プロセスを具体的に述べる。

 

2 健康教育 Health education

健康教育の最近の考え方は、行動科学に基づいた様々な学習理論や行動変容理論を通じて、ライフスキルの開発や、生活習慣の改善を目的としている。健康づくりへの動機を高め、「自分が変われる」という確信を強めるスキルは、健康教育を成功するための重要な要因といえる。 
 健康教育は一種のコミュニケーションの機会としてとらえることが望ましい。ライフスタイルを改善し、健康になるためのスキルには、保健知識、健康情報の共有(ヘルスリテラシーの向上)、うまく生きていくためのスキル(ライフスキルの向上)などがあるが、それを身につけるため体験的、参加型教育、ワークショップ、グループ、ピアアプローチなどの対話的手法も活用される。

WHOの定義では「健康教育とは、意識して企画した学習機会を意味し、個人やコミュニティの健康を導くような知識の向上や生活技術の開発といったヘルスリテラシーの改善を目的としたコミュニケーションを含むもの」とされている。)  つまり、健康教育とは単に情報のコミュニケーションだけでなく、健康的な行動に必要な、動機や、技術や、自信を育てることが大切なのである。健康教育には、個人のリスク因子やリスク行動の改善だけでなく、医療・介護などのヘルスケアシステムの利用法や、健康に影響を与えている社会・経済的・環境的状況についての情報のコミュニケーションも含まれる。したがって、健康教育の際にも、広範な健康の決定因子を話し合う中で、女性が主体的に参加し、表現し、エンパワメントしていくプロセスを重視した情報共有活動として企画される必要がある。

なお、筆者は明るく楽しいヘルスプロモーションを提唱し、笑いとコミュニケーションを軸にした、満たし型、体験型健康教育を進めている。(図1)一人一人が、健康についてのビジョンを持ち、いきいきと自分のしたいことをすることで、自己実現の方向に向かい、そのことがまた、健康的な個人や社会の創造につながっている。「笑い」とか「自信」とか「コミュニケーション」によって「エンパワメント」されていくプロセスを理解し、健康教育に応用して欲しい。)

 

3 健康教育モデル

健康行動理論に基づいたモデルには、健康信念モデル(ヘルスビリーフモデル)、変化のステージモデルなど多くのモデルがあるが、ここでは代表的なヘルスプロモーションモデルを紹介する。

@ ヘルスプロモーション計画・評価のためのプリシード・プロシードモデル
PRECEDE-PROCEED Model(図2、以下PPM

ヘルスプロモーションの理念を基にGreenらによって開発された計画評価枠組みモデルである。QOLや健康のビジョンや、指標から、様々な健康を規定する要因、特に環境要因を分析し、効果的な健康教育やヘルスプロモーション活動を計画し、政策開発にもつなげていくもので、日本ではMIDORI (ミドリ)モデルとも呼ばれている。4)

特に、健康教育に直接関わる要因として,前提要因(predisposing factors),実現要因(enabling factors)、強化要因(reinforcing factors),があるという。前提要因とは,主に行動への動機に関連する要因で,知識,自覚、信念,価値観、態度、認識,自己効力感などが含まれる。実現要因とは,その行動がとれるために必要なもので、実行促進要因である。ここには行動変容や環境変化につながるスキルや資源がすべて含まれる。強化要因とは,行動の継続に有効な報酬やインセンティブに関する要因であり、保健行動によって,対象者が感じる心地よさや達成感,更には周囲の人々から受けるフイードバック(助言、賞賛、ペナルティなど)を指す。
 前提要因へは対象への直接的コミュニケーションで,また、実現要因へは教育訓練や地域活動、政策開発などによって働きかける。強化要因へは家族、友人、雇用主など対象の周囲へのアプローチによる。これらの要因を分析して目標を決定していくが,前提要因とスキルに関連した目標は,主に健康教育によるもので学習目標と呼ばれ,その他の要因に関連した目標は、地域活動で達成される組織・資源目標と呼ばれている。このように、様々な健康決定要因を検討して、健康教育や活動をプラニングするのに有効なモデルである。

A ペンダーのヘルスプロモーションモデル


どのようにアートが社会変革の手段として使用することができます

 ペンダーは個人の健康行動に影響を及ぼす様々な要因を検討し、図3のようなモデルを描いた。3)まず個人の特性と経験(過去の関連行動と個人的因子)と行動に特異的な認識と感情の2つのカテゴリーに分けた。特に、後者は看護介入を行う際に重要なものであり、ある行動についての利益の知覚、負担の知覚、感情さらに自己効力の知覚である。これらに働きかけることが行動変容の鍵となるとした。特に自己効力感を高めることが最も重要であり、そのスキルを高めることが健康教育の最大のポイントである。

 


ラの重量損失が多すぎる食品

4.ライフスキルとエンパワメント

 ヘルスプロモーションでは、医学的な知識よりも、ライフスキルlife skillを高めることが強調される。ライフスキルとは、周囲に適応し、前向きな行動をとれる能力のことで、これにより健康的な意志決定が可能になり、日常生活上のニーズや課題に効果的に対処できる。(表3)これらは主に自己イメージに関わるものが多いが、このライフスキルが低いと、健康的な意志決定、目標設定、自己マネジメント、コミュニケーションが十分にできず、喫煙、飲酒、薬物乱用、若年妊娠、不登校、暴力、いじめなどの問題行動の遠因ともなりうる。また最近は友達が作れないという女性も多い。友人を作るのもライフスキルの一部であり、このようなスキルでネットワークができれば問題の多くは解決していく。このように、知識提供型の健康教育よりも、ライフスキルの向上のプログラムが 健康的生活習慣の定着や健康増進に有効であると言われている。

 個人的なライフスキルには、表3に示した以外にも、決断力・問題解決力・創造性・批判的思考・自己認識力・共感する心・コミュニケーションの能力・社交性・感情をコントロールする力なども含まれる。女性の健康づくりでも、このようなスキルや知識を高め、人生の課題に対処し、社会にも貢献できるようになるよう支援することが専門家の大切な役割である。

例えば、セルフエスティームを高めるには、誉められる、共感しあう、自分の意見を聴いてもらえる、あるがままの自分を理解される、支持される、自分の状況や問題に気づく、自己表現する、希望や夢が見えてくる、などのプロセスが必要と言われる。また、セルフエフィカシーを高めるには、達成感を得る(自分はできた!過去の成功体験)、類似の成功例を知る(あの人にもできた!代理の経験)、励まされる(あなたなら大丈夫!          できるよ!良くできたね!)、リラックス(楽になろうよ!落ち着いて)、前向きに考えよう(あなたは悪くない!明日はきっと良くなっているよ!)、などのアプローチが有効である。

ソーシャルサポートとは、身の回りでの支援を意味しており、その種類としては、心理的サポート(感情的支援、自己価値への支援、情報提供支援、気づきや評価の支援)と物質的サポート(直接的援助、物質的・金銭的支援)などが考えられる。そして、それを実現するソーシャルサポートネットワークとしては、家族・友人、職場・地域などのコミュニティ、利用可能な行政的支援、医療機関・福祉団体、NPO、ボランティアグループ、セルフヘルプグループといった連携ネットワークシステムがある。

スキルアップの手段も様々であるが、参加型健康教育や体験型のワークショップなどを通じて得られることが多い。例えば、避妊や性感染症の予防のためには、男性用コンドームの使用が有効であるが、通常女性はコンドームを手にしたり、正しい使用法を学ぶ機会は意外に少ない。性についての自己決定についてのワークショップに、男性用のコンドームの正しい使用法の体験的実習を組み込んだりすることは女性のスキルアップに有効である。

さて、エンパワメントとは、簡単に言えば、人と地域が元気になるということであるが、そのプロセスは多面的である。(表4)フレイレは「傾聴listening」→「対話dialogue」→「行動action」というプロセスをとると述べた。8)

それはつまり、女性自身とコミュニティが自らの潜在的な力に気づき、その力を十分発揮できるようになることである。女性達は、コミュニケーションし、想いを語り、力づけられるチャンスや、スキルや教育の機会を利用することで、自らの生活をきちんと整え、自分らしい健康的な姿を選び取ることができるようになる。このようなライフスキルの向上支援やヘルスプロモーション的支援こそが、エンパワメントを高める方法に他ならない。(図3)個人、組織、地域社会のすべてレベルでのエンパワメントが重要であり、人々が参加し、さまざまな分野の人々と共に活動することが、エンパワメントの始まりである。

 

6.ストレスマネジメントとコーピング

現代は非常にストレスフルな時代であり、家庭、学校、職場いずれの場面でも、メンタルヘルスを健康的に保つことが、必要である。ストレスマネジメントとは、ストレスとうまくつきあい、心の健康を維持向上するプロセスである。これには、個人的なカウンセリングアプローチと、周囲の暖かい環境を創るアプローチがある。

具体的には�Mayfield Publishing Company, Mountain View,

5) Kickbusch, (1986) Health promotion:A Grobal Perspective, Can J P H, 77:321-26,

6) WHO , Health promotion glossary,1998

7) 野地 有子、(2001) 生活教育 45(4) 介護保険制度における保健婦アドボカシーと日本型選択への模索、

8) Freire P (1973)  Education for Critical Consciousness. Seabury Press

9)  Spring Wind ♪ : http://www.fureai.or.jp/‾tmw/index.htm

 


表1 オタワ憲章でのヘルスプロモーションの基本的な考え方

 

健康のための前提条件

平和、住居、教育、食物、収入、安定した生態系、生存のための諸資源、社会的正義と公正

 

三つの戦略

@アドボカシー(唱道、社会的支援) 
Aイネイブリング(能力の付与、エンパワメント) 
Bメディエイト(調停、調整、協働)

5つの活動分野

 

@健康的公共政策の確立
A健康に関する支援的環境の創造 
B健康のための地域活動強化 
C個人的技術の向上 
Dヘルスサービスの方向転換

 


【表2】アドボカシーの意味するもの

本質的意味

健康ニーズに対して、直接的にサービスを提供するのでなく、ニーズが満たされるように、間接的・社会的に支援することで、健康を実現していこうとする戦略。

個々人の知識・態度・行動を変化させること以上に、法律、予算、社会的環境などのシステムに影響を及ぼし、結果的に人々に変革の力をあたえることを強調している。


何がジョン·ノウルズに影響を与え

訳とその意味

「唱道」:健康の価値や理念を語り、広める。

「権利擁護」:健康という権利を守り、育てる。人権を尊重する。

「代弁活動」:健康のニーズを代弁して、支持する。意志決定を援助する。

「政策提言活動」:政策形成に協力、システム化に向けて活動する。

「社会支援、公共的支援」:健康問題解決のために支援する

分類7

A. 対象的分類

@個別対応型(リアクティブ)アドボカシー:個人・家族への支援を中心としたもの


うつ病のサポート印字情報

A地域公共型(プロアクティブ)アドボカシー:地域を対象として、地域の組織化や政策参画を支援する

B. 内容的分類

@権利擁護モデル:権利・人権を守る

A価値による意志決定モデル:ニーズ、サービス上の関心、選択を話せるよう支援 

B人として尊重するモデル:尊厳・プライバシーを守り福利を支援する

C気づきモデル:健康に不利益な問題への気づきを支援し、解決を援助する 

 

関連用語

メディアアドボカシー:メディアを通じて望ましい世論を形成し、政治的・行政的動きに結びつけるもの

 


【表3】ライフスキルのキーワード

 

セルフエスティーム

self-esteem (自己価値感)

人の持つ自尊心や、自己受容感など自分自身を認め、受け入れる思い。自分自身に価値があるという肯定的な感覚。

(自分を客観的に評価することで、無意識の自分を探り、知り、好きになり、大切にすることができる自己肯定能力)

→「自分をあるがまま認め、自分を大切に思える、自分はOKだ。」

セルフエフィカシー

self-efficacy(自己効力感)

人が特定の行動をとれるという思い。特定の行動への自信。
(自分が望む結果をうるための行動を自分がうまくやれるという自信)
→「自分はうまくできる。乗り切れる。やっていける。」

アサーションassertion
(自己主張、自己表現)

自分を大切にしながら、相手の立場も考えて自分の感情を表現するスキル。→「自分はこう思う。ノーと言える」

自己決定、意志決定

decision making

自らの問題について、情報収集し、判断し、最もよい行動を選択し、自己主張できる能力。 →「自分で決められる」

ソーシャルサポート

social support (社会的支援)

健康やセルフケアのために行われる、家族や友人による身近な支援。適切なサポートが得られれば、QOLも高められる。ネットワークスキルも含む。→「助けてもらえる。助け合える。」

セルフヘルプ self-help

同じような問題を持つ人々と語り合うことで、自立できるよう、仲間と共に助け合って生きていく能力

→「仲間と一緒に取り組める」

コーピングcoping

ストレスなどを評価し対処することができる能力

→「ストレスを乗り切っていける」

ヘルスリテラシー

health literacy

健康面で必要な情報にアクセスし、理解し、利用していく意欲や能力。気づきなども含まれる。

→「学ぶことができる」

 


【表4】健康のためのエンパワメント Empowerment for health

 

WHOの定義とその意味 6)

ヘルスプロモーションにおいて、エンパワメントとは、健康に影響を及ぼす行動や意志決定を、人々がよりよくコントロールできるようになるプロセス。

それは、社会的・文化的・心理的・政治的プロセスであって、それを通じて、個人や社会集団が、彼らのニーズを表現し、関心を示し、意志決定への参加戦略を考え出し、ニーズを満たすための政治的・社会的・文化的行動をなしうるようになるプロセスである。ヘルスプロモーションでは、個人や集団が努力すれば、その結果としての健康上の成果が得られると言うことを気付かせるような状況を創造するという方向性を持つ。

 

ウィメンズヘルスでのエンパワメント

女性自身が、自らの生活や健康上の意志決定や行動を行うようになること

Freireによるプロセス)

「傾聴listening」→「対話dialogue」→「行動action

フレイレは、ブラジルの奥地で読み書きのできない女性たちに対して、まず、彼女たちの考えている問題にひたすら耳を傾け、さらにそこで明らかになった問題について、すべての関係者が熱心に話し合い、女性たちを含めすべての関係者が自らとコミュニティのための行動を起こせるまでエンパワメントされたという

 


表5   女性の生活習慣上の課題


グラハムティーズデールgasglow昏睡スケール

 

栄養・食生活

運動

休養、その他

思春期

朝食を食べる

カルシゥムの摂取

過度のダイエットしない

スイーツの過食をしない
(摂食障害)

調理スキルの習得

クラブ活動


世界の統計肥満

スポーツで体力づくり

ダンスなどのアート、

レクリエーション活動

基本的運動スキルの習得

徹夜、夜更かしせず

11時には就寝

適切な性行動

成熟期

米・野菜不足に注意

脂質のとりすぎ

鉄分の摂取

加工食品・外食の多用

妊娠・授乳時の栄養

育児食、食育スキル

健康的食習慣の確立

ジョギング、テニスなど軽いスポーツ

フィットネスクラブ、エアロビクス

家庭的野外活動

(ハイキング、ピクニック)

アルコール、たばこ摂取注意

人間関係(家庭、職場)のストレス

出産・育児、PMSのコントロール

検診などの健康管理

更年期

老年期

バランスのとれた食事

良質のタンパク質摂取

コレステロール摂取注意

ビタミン・ミネラル(Ca,Fe

ウオーキング(歩こう会)

スイミング

体操、ストレッチ

骨盤低筋群体操

腰痛体操

不眠など睡眠障害への対応

ストレス、不安解消

社会活動への参加

仲間づくり


【表6】

場(セッティング)での具体的な健康教育支援的活動例

家庭

      肥満児のいる家庭で、家族全体がダイエット・コントロールに協力できるため、適切な食生活の理解や、調理プランや、身体活動計画を共に考え、話しあい、その実行を支援する。

      妊婦に対する生活支援を夫や家族が理解し、話し合い、適切な生活環境を創るとともに、子供の自立を促し、不安を解消する。

      アルコール依存症の女性の支援として、家族カウンセリングを行い、家族関係の破綻や葛藤を和らげ、家族の理解と協力を得て、本人の医療ケアやメンタルヘルスを向上させるだけでなく、共依存やアダルトチルドレンへの対応を総合的に行っていく。

      高齢者の介護技術を家族に指導し、スキルを高めると共に、介護予防に必要なことを家族全体が学ぶ。

 

地域・
コミュニティ

      市町村保健センター、公民館、保育所など身近なコミュニティセンターを活用して、親子の育ちの場、若者が自分の性的問題について語りあえる場、会社を離れて職場での心の問題を話せる場といった、ヘルスプロモーション地域活動の拠点とする。

      乳児健診などの場を活用して、母親の様々なメンタルヘルス上の問題を話しあったり、解決していくワークショップを持つ。

      児童虐待を早期発見し、親を支援できるようなネットワークを地域で創り、エンパワメントできるような活動を行う。

      更年期を乗り切るための食生活改善の取り組み(栄養情報の共有や調理実習)を地域で行う。その場で、更年期の悩みを語りあったり、教育的ニーズを明確化し、支援システムに発展させていく。

      地域での介護予防問題を話し合い、近所でできることを考え実行する介護予防活動の取り組みを、みんなで行う。

 

職場

      職場内禁煙とか、就学児童を持つ親のフレックスタイム制の導入などのウィメンズヘルスポリシーを職場に定着できるような取り組みを行う。

      ヘルスニュースレターとか、ランチタイムセミナーなどの教育的機会を増やす活動

      身体運動やフィットネスのインセンティブとして、地域のスポーツセンターの利用料割引などを考えていく。

      女性の健康を視野においた食堂でのヘルシーメニュー(野菜いっぱいメニュー、カルシゥムたっぷりメニューなど)などを提供できるよう要望していく。

      時間外勤務やシフト勤務、夜間勤務などでの負担の軽減や生理休暇、育児休暇の確保など労働時間の短縮や遠距離通勤での疲労軽減への話しあいや問題解決。

      職場のストレスによるメンタルヘルス的課題に対する労使の取り組み、専門職の支援や、解決のための話し合い、癒しの活動。


 

学校

      栄養価の高い給食の提供と共に、女性の健康や、不足しやすい栄養素や食品についての知識や、調理スキルを習得する教育機会を専門家のネットワークで取り組む。

      「援助交際」などをテーマに、女性の体と性を大切にするための話し合いをもつなど、性の見方や性的アイデンティティ、健康観、身体的自己決定などについてのワークショップを学生生徒とともに行う。


      性教育、エイズ・HIV教育を含めたリプロダクティブ・ヘルス教育のため、PTAと共に話し合い、実行する。

      保健センターなどと協働して、「赤ちゃんふれあい体験」などといった、乳児健診ボランティア活動を企画し、母性の大切さを考える機会を持つ。

医療機関

      不妊カウンセリングだけでなく、女性の不安や心理的動揺、あるいはストレスを生み出す環境に重点をおいた、ワークショップも取り入れ、エンパワメントできる総合的支援を行う。

      エイズや性行為感染症の検査や診療にとどまらず、ハイリスク行動の改善のためのピアサポートやセックスワーカーへの支援的アプローチを行う。

      更年期のHRTホルモン補充療法に加え、グループディスカッションによる課題解決や、情報共有、心理的安定、食事、運動などの総合的支援を集団的に行う。

 


【図1】明るく楽しいヘルスプロモーション概念図(佐甲)

【解説】

筆者によるヘルスプロモーションの重要なキーワードを示したモデルである。)   基本的な健康の規定因子を基盤にすえ、右側の地域社会のヘルスプロモーション活動に支えられながら、左側の個人的なヘルスプロモーションが進んでいく。

【図2】

ヘルスプロモーション計画・評価のためのプリシード・プロシードモデル
PRECEDE-PROCEED ModelL.W.Green et.al.4)
【解説】
PRECEDEは,Predisposing, Reinforcing, and Enabling Constructs in Educational/
environmental Diagnosis and Evaluation(
教育面/環境面の診断と評価における前提・強化・実現に関する構成要因)の頭文字で,「実施に先立って」という意味をなしている。また,PROCEEDは,Policy, Regulatory, and Organizational Constructs in Educational and Environmental Development(教育・環境開発における政策・法規・組織に関する構成要因)の頭文字で,「ひき続いて」という意味をなす。

このモデルでは、プログラムの計画・実施・評価を9段階に分けて行う。まず、社会・疫学アセスメントとして、QOLや健康に関するニーズを分析し、さらに行動・環境アセスメントとして目標とすべき健康行動やライフスタイルや変えて行くべき環境の目標を定める。そして健康教育的介入のベースとなる前提、強化、実現要因を考え、適切なプログラムを検討実施し、その成果を評価していこうというものである。

 

【図3】

エンパワメントの構造

 

 


 

【エピソード】

不妊女性教室のヘルスプロモーション的な企画

 

対象者:不妊女性に限らず、子供がいない女性で、悩みのある人すべて。

ネーミング:「母になりたい女性の集い」といった共感的なものにして、参加しやすいムードを高める。

グループワーク:5−6人のグループで、子供ができないことの悩み、つらさから、始まって、悲しみのありかた、孤独感、ストレス、治療関連の不安や様々な負担などネガティブな要因について共感しあう。また、なぜ子供が欲しいのかを確認し、子供を持たないことの意味やメリットや子供以外の生きがいなど、前向きな側面も含め、今後の望みやそれを阻むものを意識していく。そして、どのような情報やスキルが望ましいか、どのようなケアや支援が欲しいか、夫や家族に望むこと、どのようにすれば癒しと安らぎが得られるかを語り合う。看護職はできるだけ傾聴と共感に徹する。

プラニング:ある程度話しあいが深まってから、不妊教室の進め方や、聴きたいこと学びたいこと、話あいたいことがらを参加者自身がプラニングしていく。看護職はそこで出された要望やニーズをふまえて、テーマを決め、内容も講義だけでなく、参加ができるような体験型、ワークショップの形で提案する。スタッフは専門職だけでなく、ボランティアや当事者など、「仲間」を含めて共感的なコミュニケーションがとれるよう、できるだけ明るい雰囲気を維持し、エンパワメントを高めていこう。

実施と専門家の役割:参加者の想いを重視し、傾聴し、共感的に情報共有しつつ、生活改善を提案し、力づけてライフスキルを強めながらエンパワメントし、参加者の自己実現を支援していく。特に、女性としてのセルフエスティームの回復、子供がいないことに関するストレスの克服、治療への前向きな姿勢が得られるような心理的支援、日常生活支援、夫婦関係の調整などを意識しつつプログラムを計画実施する。教室の実施はできるだけ、参加者中心で楽しく運営し、専門家は調整、支援しよう。できれば、この教室から自助グループへと発展していくことができれば良い。 

評価:教室の前後での様々な変化(人々のスキル、意識、元気、満足度)を参加者と共に考え、成果と課題を見いだそう。

 




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